南信州リニア未来ビジョン(議論のための)

リニア開通で変わる南信州とビジョンの作成

(1) 多様な交流圏域の形成と「ヒト、モノ、コト」の流れ

リニア中央新幹線や三遠南信自動車道の開通により、高速交通網でつながった都市圏からの来訪者が増加し、多様な交流が生まれることが期待されます。こういった流れを地域の中で大きな対流にしていくためには、広域交通拠点やそれぞれの地域拠点の連携を促進し、ヒト・モノ・コトがつながる交流圏域を形成していくことが必要です。そのためは、拠点間をつなぐ道路網の整備や交通の新機軸の構築は重要な要素と考えます。

南信州の広域的な幹線道路網は、西部軸(飯島飯田線~フルーツライン~羽場大瀬木線~国道153号)、中央軸(国道153号~国道151号)、東部軸(伊那生田飯田線~竜東一貫道路~下久堅知久平線~飯田富山佐久間線)、外環状道路(西部軸~国道418号~国道152号~松川インター大鹿線~西部軸)、東西横断軸(座光寺上郷道路~上飯田線~竜東一貫道路~下久堅知久平線~国道256号~三遠南信自動車道)などで構成されています。

また、市街地を取り囲む道路網として、内環状道路(座光寺上郷道路~西部軸~三遠南信自動車道山本IC~飯田上久堅・喬木富田IC~国道256号~下久堅知久平線~竜東一貫道路~上飯田線~座光寺上郷道路)が設定されています。こうした幹線道路網は、国や県との連携を図りながら、更に整備を推進する必要があります。

そのほか、南信州地域を南北に走る飯田線は、通勤通学のみでなく高齢者等交通困難者の移動手段として利用されています。近年は、「秘境駅ブーム」等で観光面でも注目されており、リニア中央新幹線との連携を図ることで利便性が向上し、更なる活用が進むものと考えられます。

リニア開通効果を地域全体に波及させるためには、リニア駅を基点とした二次交通の整備を進めることが重要です。自動運転技術や新しいモビリティも活用し、需要に柔軟に対応できる交通システムの構築が求められます。

しかし、リニアの開通でヒトやモノの交流が盛んになり、経済の活性化につながることを期待する一方で、この地域の人々の圏域外への流出が進むのでは、という懸念もあります。そうならないために、生産年齢人口の増加に向けた積極的な対策が必要になります。また、地域の魅力、新たな価値の創造など、リニアが開通してもこの地域に住み続けたいと思えるまちづくりが必要です。

今回のビジョンは、このような二面性を意識しながら、どのような未来を描くことがこの地域にとって望ましいのか、その方向性を地域全体で共有するために、視覚的にも分かりやすい「未来の絵姿」という形でまとめました。

リニア中央新幹線、三遠南信自動車道開通後の地域間交流のイメージ

リニア中央新幹線、三遠南信自動車道開通後の地域間交流のイメージ

(2) 地域の強みを活かした重点的な取組

長野県や上伊那・南信州地域の市長等で構成される伊那谷自治体会議(リニア中央新幹線を地域振興に活かす伊那谷自治体会議)では、地域の特性を活かし、伊那谷が国内外から選ばれる地域となるための重点的な取組について、次の2つの方向性を確認しました。

◆ 持続可能な環境共生先進地域づくり
◆ 豊かな自然環境と独自の文化などを活用した教育・学びの先進地域づくり

このビジョンでは、この方向性を意識しながら、地域の将来像を示すことにしました。

(3) 広域計画で検討するとしている「望まれるインフラ」について

南信州広域連合が平成26年度に策定した「第4次広域計画」では、「リニア中央新幹線開業に向けて望まれるインフラ」について、4つの施設を挙げています。これまでの取組状況と今後の方針は、以下のとおりです。

ア 研究開発機能の拠点施設

広域連合は、リニア中央新幹線の長野県駅に近接する旧飯田工業高校の施設を利活用し、「エス・バード(産業振興と人材育成の拠点)」を整備し、平成31年3月にグランドオープンしました。運営と管理は、(公財)南信州・飯田産業センターを指定管理者に指定して行っています。施設では、高度な環境試験機器を備えた工業技術試験研究部門や食品系試験室を備えるほか、「信州大学共同研究講座」を実施するなど、産官学連携によるリーディング産業の創出や、地場産業の高度化、付加価値化を進めています。また、福島ロボットテストフィールドと連携協定を結び、次世代空モビリティの研究にも取り組んでいます。

イ 高等教育機関

南信州地域には4年制の大学がなく、この設置が長年の悲願となっています。「エス・バード」では、「航空機システム共同研究講座」と「ランドスケープ・プランニング共同研究講座」を信州大学と協力して開講し、修士課程の高等教育機関としての機能を実現しています。現在、地域の企業、団体、個人などの皆さんにより「信州大学新学部誘致推進協議会」を設置し、新たな学部の誘致に向けた活動を行っています。今後は、こうした取組を更に広げ、「南信州キャンパス構想」と、「大学のあるまちづくり」を推進していきます。

ウ コンベンションセンター

コンベンションセンターは、展示会や学会などの会議を行うための複合的な施設です。中核となる展示施設や会議施設の他、宿泊施設やアフターコンベンション、更には受入体制としてのコンベンション・ビューローの機能などが必要とされています。

南信州広域連合では、コンベンション機能やスポーツ施設としての機能を含む複合施設として検討を進めてきました。当面は、エス・バードや民間施設を含めた各施設が連携してコンベンションセンターとしての役割を担うこととなりますが、新たな飯田文化会館や高等教育機関設置の取組を進める中で、この地域におけるコンベンションセンターの機能を検討していきます。

エ スポーツ施設

アリーナ機能を中心とするスポーツ施設は、この圏域において住民要望があることから、南信州広域連合では、全国の施設やこの地域の可能性について調査を実施してきました。令和元年度には、様々な立場の方々から構成する「検討委員会」を設置して検討を行いました。また議会でも「検討委員会」を設置して検討がされ、意見書を提出いただいています。

こうした中で、施設の建設・運営の方式については、広域連合が事業主体となる公設公営方式は難しく、民設民営又は公設民営方式とすべきこと、地域負担が過大とならない施設規模や財源の検討が必要であることが整理されてきました。新施設のあり方については、「スポーツ文化の醸成」といった観点から、圏域全体で機運を更に高めると共に、リニア駅を核とした地域全体のビジョンを描いていくことが必要であると考えています。

(4) ビジョン作成のアプローチ

ア 2つの視点

リニアの開通効果を活かし、地域振興につなげていくためには、外から呼び込む交流人口を増やすだけでなく、この地域から人々が離れていかないようなまちづくりが必要になります。

2050年に日本一住みたい地域になるということは、ここに住んでいる皆さんが「30年後にこんな地域になっていたらずっと住んでいたい」と思えるようなまちにしていくということです。下伊那郡部では、ブロックごとの議論で出された様々なアイディアを、住んでいる人が住み続けたいと思うまちづくりにつながるもの(内部目線)と、外の人が訪れたい、つながりたい(住んでみたい)と思うまちづくりにつながるもの(外部目線)の2つの視点を意識して整理してみました。

◆内部目線 … 住んでいる人が住み続けたいと思うまち
◆外部目線 … 訪れたい、つながりたい(住んでみたい)と思うまち

イ 7つの分野

住みたいまちづくりに必要な要素には、仕事、遊び、教育など様々な種類があります。これらをいくつかの分野にまとめて色分けし、視覚的に分かりやすくするため、ピクトグラム(事象をイメージ化した絵文字)でそれぞれのエリア図に表しました。同じピクトグラムでも分野が違う場合には、違う色で表すこととしています。ビジョンに示す分野と色分けは、以下の7種類としました。

◆つながり・移住【赤】… 移住につながる外部との交流、企業誘致等(外部目線)
◆暮らし・仕事【橙】…… 住まい、仕事(地場産業含む)、子育て、買い物等(内部目線・外部目線)
◆観光・レジャー【緑】… 外部目線での観光や内部目線でのレジャー等
◆学び【青】……………… 高等教育、生涯学習、環境・スポーツ・キャリア教育、担い手教育等
◆健康・福祉【桃】……… 医療、福祉、健康づくり、保養等(内部目線)
◆地域の財産【黒】……… 育て守っていくもの、強み(風景、伝統文化、伝統芸能、伝統産業等)
◆道路 …………………… 新規路線、改良路線ほか特記すべき路線

ウ 新たな戦略的要素

リニア未来ビジョンの実現を目指したまちづくりの要素は、上記以外の視点として「既にあり、守り育てるもの」や「新設したり、更に充実拡大したりするもの」などが考えられます。このビジョンで整理したピクトグラムは、全てが重要な要素ですが、その中で特に広域的な効果が期待される取組となる新たな戦略的要素を丸型のピクトグラムで表示しました。

このような整理は、色分けをした7つの分野も含めて必ずしも明確な基準で区別できるわけではありませんが、今後の取組への目安として表示しています。

(5) 南信州地域を構成する4つのエリア

南信州地域は、飯田市と下伊那郡の13町村で構成されています。このうち郡部は、北部(2町3村)、西部(3村)、南部(1町4村)の3つのブロックに分けられます。

このビジョンは、これら4つのブロックごとに検討チームを構成し「2050年に南信州を日本一住みたい地域にするためには」をテーマに、それぞれの自治体の枠を超え、広い視点に立って協議を行ってきました。各ブロックでの検討結果を広域連合として集約し、整理調整を行ったものが今回のビジョンとなっています。エリアごとテーマに対するアプローチの方法や検討の仕方が異なるため、協議の進捗に差はありますが、これまでの議論を一旦とりまとめ、完成形ということではなく、現時点における地域の将来像として示しています。